家庭教師ファースト教育コラム大学受験

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【医学部受験】医師のキャリアと大学生活から見た、志望校の選択方法

  • 大学受験
  • 2021.12.19
  • 現役医学部生ライター I

一般的な志望校の選定方法は、偏差値や家からの近接性などで選ぶ人が多いのではないでしょうか。
実際、受験生にはその尺度以外で、大学を見定めることは難しいと思います。
 
しかし医学部の場合はどうでしょうか。
どのように志望校を選ぶのが適切かという疑問に、現役医学部生の筆者が、医師のキャリアと大学生活の視点から解説します。
現役大学生からの視点を加えることによって、新たな視点で志望校を選定していただければ幸いです。
 
なお、私のような現在医学部に通っている学生に相談するのも有益だと思います。
家庭教師ファーストでは医学部生を指名することもできますので、是非ご相談ください。

将来の医師としてのキャリアという視点から考える志望校選び

将来の医師としてのキャリアという視点から考える志望校選び

偏差値にとらわれない志望校の選定方法の1つとして、医学部卒業後、医師としてキャリアを重ねると仮定した場合、大学によってどのようにキャリアに影響を及ぼすのかという観点からお話していきます。

卒後の医師のキャリア形成について

まず、大学を卒業した後の医師のキャリアを簡単に説明します。
大学を卒業後、医師は初期研修というものを2年間受けることが義務付けられています。
初期研修で勤務する病院は、卒業前にマッチングというものをして決めます。
マッチングとは、世間でいうところの就活の病院バージョンです。
くれぐれもマッチングアプリのことではないので、注意してください(笑)
初期研修中は、一定期間ごとに約30あるすべての診療科を回ります。

その後、卒後3年目から後期研修に入り、自分の専門にしたい診療科を深めていきます。
後期研修を3~5年ほどこなし、専門医試験に合格すると、専門医という肩書きを得ることができます。
初期研修と違い、後期研修は義務ではないので、初期研修終了後、必ず専門医を取らなければならないということではありません。
大学院に行って研究する医師もいますし、専門医取得を目指さずに働き続けることも出来ます。

地域枠と一般枠

志望校を選定していく中で、同じ大学でも一般枠と地域枠の2つの枠を用意している大学が多いのはご存知でしょうか。
旧帝などの一部の大学は地域枠を用意していませんが、地方国公立では、ほとんどの大学が用意しています。
一般に地域枠は一般枠よりも偏差値が少し低いことが多いです。
 
一般枠と地域枠の定員の比率はまちまちです。
旧帝のような大学は、全部一般枠であるのに対して、公立大学や田舎にある大学では地域枠の比率が高くなります。
例えば、札幌医科大学では、およそ半数が地域枠です。
地域枠とは、大学所在地の都道府県あるいは、枠によって指定された都道府県に9年間勤めるという誓約書にサインすることで入学が許可される枠です。
一般的に地域枠の人は、卒業までに大学から約2000万円の奨学金が貸与されて、卒後9年間、大学に指定された地域で働くことでその奨学金の返済義務が免除されます。
要するに、卒後9年間、指定された地域で働くと2000万円もらえることとほぼ同義です。
 
一方で一般枠は、特に制約はなく、卒業後の勤務地域に制限はありません。
推薦入試の場合、地域枠のみ募集している大学もあれば、一般枠の推薦入試を実施している大学もあります。
これは、各大学の募集要項をよく読んで確認するしかありません。

マッチングと地域枠の創設

上記の2つの話題から、地域枠がキャリア形成にどのように影響を及ぼすのかお伝えしていきます。
 
地域枠は、要するに働く場所を制限されるのですが、働く場所の自由はどれほど重要なのでしょうか。
初期研修で働く病院を決めるとき、マッチングで就職先を決めます。
マッチングという制度は、2004年から始まりました。
マッチングの制度が始まるまでは、大学を卒業した後、自大学にて働き始めるのが一般的でした。
つまり、医学生全員が、実質地域枠のような状況でした。
しかし、マッチング制度の導入により、マッチングした病院であれば、好きな場所で働くことができるようになりました。
 
一般枠の人は、この新しい制度の恩恵を受けることができるので、好きな場所で働くことができます。
地方の人が都会に行くもよし、地元に帰るもよし、大学所在の都道府県に残るもよし。
選択肢の幅が広がり、ライフプランニングの自由度が上がりました。
その結果、マッチング制度の開始後、都市部ではたらくことを希望する医学生が多数現れ、地方で初期研修を行う医師が減りました。
 
地方での医師不足解消のため、創設された制度が地域枠になります。
地域枠で、卒後の進路を大学所在の都道府県に制限する(大学病院に限定されることはなく、指定された都道府県内であれば、市中病院に就職することも可能)ことで、地方で初期研修を行う医師を確保しています。
一般枠と地域枠で、勤務地の制約の有無があるので、地域枠の不利な点を補うために奨学金約2,000万円というわけですね。

地域枠の卒後のキャリア形成

地域枠は、卒後の勤務地が制限される代わりに、9年間働くと奨学金約2,000万円の返還が免除されます。
これは、言い換えると、勤務地の自由を2000万円で売っていることと同じです。
自分がその大学の指定された場所ではたらいてもいい、あるいは、地域医療に従事したいという思いがある人は、この枠はお得です。
約2000万円もらえるうえに、偏差値が一般枠よりも低いことが多いからです。
 
一般枠か地域枠かという論争は絶えることなく行われていますが、地域医療に従事したい、あるいは、大学所在地の都道府県で働きたいという意思のある人は、地域枠に出願するのはいいことだと思います。
 
しかし、特に明確な目標がない人はまず、一般枠を目指した方が賢明です。
受験生が、大学在学中の6年間に加えて卒後9年間の合計15年間の所在地を安易に決めないほうがいいと個人的には考えています。
15年後の未来が予測できる人はそう多くはないと思います。
自分の考えや人生観は大学在学中に代わる可能性が高いですし、そもそも医学を全く習ったこともないのに地域医療に従事したいという動機も不十分です。
医学をすべて学んだのち、地域医療に従事したいと思えば、地域医療に従事するのがいいですが、少しでも迷っている人は一般枠を目指した方がいいと思います。
 
一般枠であれば、初めは地元に戻ろうと考えていたり、都市部に行こうと思っていたりしても、大学で地域医療の授業を受けて地域医療に従事したいと思った時に、方針を転換して、大学所在地で勤務することができます。
もちろん、地域枠の偏差値が一般枠の偏差値に比べてやや低いことや、実質2000万円給付されることを考えて地域枠で入学し、その後の人生は在学中、卒業後と常に考えながら生きていくのもいいと思います。
地域枠が始まった当初よりも地域枠の医師のキャリア形成支援も充実してきており、キャリアプラン的に不安がる必要はありません。

地域枠に出願する場合はよく考えてから

いずれにせよ、一般枠か地域枠かの選択は、大学入試の難易度にはわずかしか影響を与えませんが、今後の人生には大きく影響することなので、よくよく考えてから出願するべきだと思います。
私の周りでは、偏差値的に地域枠しか厳しいと判断して地域枠で妥協した友人もいますし、地域枠であるならば医学部に進学したくないと考え、医学部進学を断念した友人もいます。
2人とも、地域枠と一般枠の違いをよく考えたうえでの決断なので、自分の決断に後悔していないそうです。
みなさんも、安易に地域枠か一般枠か決めずに、よくよく考えてから決めてください。

まとめ

医師として働くことがイメージできない受験生には、上記のテーマは勉強になったのではないでしょうか。
これは、医学部受験においてのみでなく、どこの大学のどこの学部に行くにしても、将来についてある程度考えておかなければなりません。
ただ、医学部の場合、入学した時点で卒後9年の勤務地の制約を受ける可能性があるという点で、他の学部と大きく異なるので、将来について他の学部を志望する人よりも考えてから出願し、受験、進学する必要があります。

現役医学生としての視点から考える志望校選び

現役医学生としての視点から考える志望校選び

次は、医学部の学生生活の視点から見ていきたいと思います。

医学生は忙しい?

医学部の学生生活といえば、「忙しい」というイメージを持たれているかと思います。
しかし、実際は意外と時間があります。
もちろん、テスト前や実習期間、高学年は「ポリクリ」という病院実習があり忙しい期間はありますし、長期休みは他の学部に比べてかなり短いです。
大学生活が忙しくなるかどうかは以下の2つの因子で決まります。
ここから先は、医学生生活の特徴と忙しくなる要因を掘り下げていきます。

忙しくなるケースその①「部活動」

しかし、6年間常に忙しいわけではなく、遊びに行ったり、バイトをしたり、部活動にいそしんだりすることも出来ます。
医学部には、運動系サークルが少なく、運動部活動が多いのが特徴的です。
一般的な大学生は、強豪校の推薦や、本気でスポーツに打ち込みたい人を除いて部活動に入ることはほとんどないですが、医学部では8~9割の人が部活動に所属します。
部活動に入ることで、同学年の友達だけでなく、上級生、下級生、OB・OGの先生方と交流することができます。
働く地域にもよりますが、自分の知っている先輩がいる病院だと、マッチングの前に病院の内情をある程度把握したうえで病院探しをすることができたり、知り合いの知り合いで人脈が広がっていったりします。
 
部活動は、部の方針によりますが、だいたい週2~5回の練習があります。
高校生の頃に運動部に所属していた人からすると、週3回くらい余裕だという人もいるかもしれません。
しかし大学生活は勉強と部活だけでなく、バイトをしたり、遊んだり、自分の好きな勉強をしたりと、時間の使途が自由な分いろいろなことに時間を使われていきます。
そうすると、部活動が大変だと医学生生活は忙しいものになっていきます。
部活動が忙しすぎて、医学生生活で最も重要な勉強がおろそかになっては元も子もありません。
漠然と勉強が大変だと言われても、高校の頃の忙しさとは性質が違ってきますので、次章からは医学部ならではの勉強の大変さを詳しく説明していきます。

忙しくなるケースその②「勉強」

上に記した通り、医学部は部活動が特殊なのですが、漠然とした勉強が大変なイメージがありますよね。
おそらく、どの学部よりも授業実習テストに追われる大学生活にはなります。
医学部のカリキュラムなんてほぼ同じだし、どの大学に行っても似たような授業・実習・テストを受けることになります。
しかしこの中で、「テスト」が大学生活を忙しくするか否かを左右するとても重要な因子となります。
医学部のテストの過酷さ、過酷になる要因を詳しく説明していきます。

医学部のテストは留年と直結する

医学部のテストをヤバくしてしまう要因は、進級の制度にあります。
一般的な大学は、ある単位が取得できない場合、成績表に「不可」がついて、「再履修」といって翌年もう一度その授業を受け直すことになります。
しかし、医学部の場合、試験が不合格で「不可」がひとつでもついてしまうと、「再履修」することが出来ず、即留年してしまいます。
一部の大学では、「再履修」できます(これを仮進級という)が、年々その大学は減少傾向にあります。
 
つまり、「テストに落ちる=留年」という厳しい状況で6年間の大学生活を送らなければなりません。
毎年、すべての試験を合格してようやく進級することができます。
筆者も今年度約30個の試験をすべてパスして、無事次年度への進級を決めています。
膨大な試験を1つでも不合格としてしまうと留年です。
要するに医師になるのが一年遅れてしまうのです。
また、学年が下の人に合流することになるので、人間関係の複雑化は避けられません。
 
留年してしまうと、翌年もその翌年も留年してしまうリスクが高いです。
実際、2留、3留がゴロゴロいる大学もあります。
大学によっては、留年した後「不可」の科目の「再履修」だけで良い大学と、全科目「再履修」という厳しい大学もあります。
カリキュラムがほとんど同じなので、テスト内容も似たものになってきます。
最低でも偏差値65がある秀才の集まりで、テストの内容が似ているなら、どこの大学でも留年しやすさは一緒ではないかと思うと思います。
しかし、その予想を裏切る資料がありますので、それを見ていきましょう。

大学によって全然違うストレート卒業率

下記資料の「医学部医学科における国家試験等の状況(令和2年度)」というページの「最低修業年限での卒業率」という項目を見てください。
https://www.mext.go.jp/content/20200904-mxt_igaku-100001063-2.pdf
(出典:厚生労働省報道発表資料、文部科学省医学教育課調べ)
 
98%の京都大学が最大値で、川崎医科大学の64.2%が最小値です。
タイトルのストレート卒業率とは、入学者全員に対する、一度も留年することなく卒業した人の割合のことで、「最低修業年限での卒業率」と同義です。
このデータからわかるように、留年のしやすさは大学によって大きく異なります。
留年しないための勉強を頑張るのはもちろんですが、留年するリスクを出来るだけ低減するためには、ストレート卒業率が88%以上の大学を狙うことをお勧めします。
大体の医学部定員が100人であることを考えると、毎年2人ずつ留年すれば、ストレート卒業率は88%になります。
毎年2人しか留年しないのは、進級に対してかなり寛容な大学ですので、「進級しやすい」つまり大学生活の中でテスト前に留年におびえるストレスが低減することを意味します。
ストレート卒業率というマニアックな物差しだけで志望校を考えることはお勧めしません。
ただ、偏差値・大学の立地・共通テストと二次試験の配点比率など種々の条件で絞り込んでも候補がたくさん残った場合に、ストレート卒業率を参考にしてみることをおすすめします。
せっかく過ごす大学生活6年間を留年におびえて過ごすより、充実した日々にしたいですもんね!

もう1つの指標「国家試験合格率」

先ほどのデータをもう1度見てください。「第115回国家試験(令和3年3月)合格者状況」というところを見ると、各大学の国家試験合格率が一覧になっています。
国家試験は全員が同じ試験を受けるし、大学受験の偏差値ランキング順に国家試験の合格率も並んでいるはずですよね。
しかし、偏差値の王者東京大学医学部の国試合格率は、95.6%で、1位ではありません。
1位は、100%の筑波大学、東京医科歯科大学、信州大学、自治医科大学となります。
偏差値がかなり低い私立大学も、国家試験合格率は80%以上を保っている大学が多く、一見、どの大学でも医師国家試験に合格することは容易に見えます。
 
「出願者数」と「受験者数」の変遷を見てください。
ほとんどの大学では、出願者数と受験者数に大きな乖離は見られません。
しかし、一部の大学では、10人ほどの乖離があります。
この差は、6年生で留年して卒業できなかった人が除かれることにより、当初医師国家試験を受験予定だったにもかかわらず、受験できなかった人たちがいることを意味しています。
この2つに乖離が見られる大学は、国家試験の合格率を高くするために、国家試験に合格する見込みのない学生を卒業させないのです。
国家試験を受験させていないのですから、一概に医師国家試験の合格率が高い大学=安心というわけではありません。
 
偏差値と国家試験合格率は、上記の「出願者数」と「受験者数」に乖離のある大学を除いて相関関係がありません。
ですから、志望校を選定する際の基準にすることがおすすめしません。
どんな大学であっても、入学後、人並みに頑張っていれば、国家試験には合格します。

まとめ

以上、受験生には持ちえない視点から医学部を分析してみました。
このような要素はあくまでも、偏差値や共通テストと二次試験の配点比率などの重要な要素で志望校を絞ったのち、最後に少し立ち止まって考えてみる程度に参考にしてください。
 
なお、繰り返しになりますが、実際に現在医学部に通っている学生に相談するのも有益だと思います。
家庭教師ファーストでは医学部生を指名することもできますので、是非ご相談ください。

医学部受験は、その後の人生(大学生活も医師としてのキャリアも)を大きく左右します。
ストレート卒業率という大学生活が楽になるかの因子を提示しましたが、テストにおびえてテスト勉強に明け暮れるよりは、自由時間を出来るだけ多く確保して、自分のやりたいことに充てる方が後々いいです。
 
自由時間は遊ぶことも出来ますが、授業で習って特定の分野に興味を持てば、その教授に連絡して研究室に入らせてもらうことも出来ます。
英語を勉強してTOEFLを受験したり、カリキュラム的に学ぶことのできない別の分野(例えば経済学)を学んだりすることも出来ます。
 
医師になると自由時間はさらに少なくなり、ゆっくり英語を勉強したり時間をかけて資格を取得するための勉強をしたりするのは難しくなります。
そうなる前に、興味のあることは大学生活のうちに経験しておくことをお勧めします。
 
そのような大学生活を送るためには、学校の試験で苦しめられている場合ではありません。
入学後にこれらの要素に気づいてからでは遅いので、志望校選定の際に上記の知識を生かしていただけましたら幸いです。

この記事を書いたのは

現役医学部生ライター I

家庭教師ファーストの登録教師。和歌山県立医科大学 医学部に在学中。国立中学受験を経験。学生ながら、指導人数は20名以上。

著作・制作

家庭教師ファースト/株式会社エムズグラント

『質の高いサービスを、良心的な価格で』をモットーに、全国で20年以上家庭教師を紹介しています。実際に担当する教師による体験指導受付中。教育に関する相談もお気軽に。

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