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家庭教師ファースト教育コラム理科・科学の雑学

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【宇宙】ロケットとは何か?~ロケットの仕組みとその技術の応用~

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  • 家庭教師ライターE

みなさんは宇宙、行きたいですか?私は行きたいです。ではどうやって行きましょう。かぐや姫は空飛ぶ車に乗って月に帰り、ヴェルヌの著した歴史を変える名作「地球から月へ」では三人の博士が270mもある巨大な大砲の砲弾に乗って発射されます。しかし今のところ、現実的に宇宙に行く手段はロケットしかありません。将来的に、素材や安全性などの課題が解決され軌道エレベーターで手軽に宇宙に行ける日が来るかもしれませんが、どれくらいかかるかは分かりません。

では、そもそもロケットとは何なのでしょう。何故飛ぶことが出来、どうして今のところ唯一の宇宙飛行の手段なのでしょう。簡単にですが、この記事ではロケットの仕組みや、その技術の応用について説明していこうと思います。

なお、お勉強の事でお困りごとがありましたら、是非私たち家庭教師にもご相談ください!また、家庭教師の仲間も募集中です。ご興味のある方は下記リンクより是非ご検討ください。

ロケットとは何か?

ロケットとは

そもそもロケットという言葉の定義は何でしょうか。答えは「自分の質量の一部を捨てることで推進力を生み出すもの」というのが一般的です。多くの宇宙ロケットは火を噴いていますが、推進力を生みだしているのは「火」そのものではなく、ロケットエンジンから高速で噴射される燃焼ガスです。

運動量保存の法則

我々が住む宇宙のルールとして、外側から力を加えなければ動いている物は動いたまま、止まっている物は止まったままでいたがるというものがあります。では、内側から力が加わった場合はどうなるでしょう。答えは、「動き始めることはあるが、必ずプラスマイナスゼロになる」です。

重力も空気抵抗もない仮想空間に、質量10gの物体が浮いています。この物体が突然内側からはじけて二つに割れ、5gの物体が時速1kmの速さで飛び出したとします。すると、残りの5gは反対方向に時速1kmで飛んでゆきます。最初のひとかたまりだった状態をゼロとすると、5gは時速プラス1kmで動き始めましたが、残りの5gが同じ速さで反対方向へ、つまり時速マイナス1kmで動き始めるため、総合するとゼロになります。

ではちょうど半分に割れなかった場合はどうでしょう。その場合は、質量と速度を掛け合わせた値がプラマイゼロになります。この質量と速度を掛けたものを運動量と言い、外から力が加わらなければ運動量は一定であることを「運動量保存の法則」と言います。

止まっていた11gの物体が割れて、1gと10gに別れ、1gの方が時速プラス10kmで飛び出したとします。その場合、10gの方は時速マイナス1kmで飛び出します(つまり1gの方とは反対方向に時速1kmで飛ぶ)。1(g)×プラス10(km/時)=プラス10、10(g)×マイナス1(km/時)=マイナス10。これでプラマイゼロになります。

ではこの11gの、10gの方が本体で1gの方を捨ててもいいゴミとします。本体を出来るだけ早く移動させたければ、ゴミをものすごい速さで発射すればいいということが分かるでしょうか。1グラムのゴミを時速1000kmで吹っ飛ばせば、10gの本体は運動量保存の法則により、ゴミを捨てたのと反対方向に時速100kmで動き出せることになります。

身近なあれもロケット

この運動量保存の法則を利用し、自分の一部を高速で後ろに捨て、本体を前に加速するものをロケットと言います。飛行機についているジェットエンジンは、空気を吸い込んで燃料を燃やしガスを噴き出すことで推力を得ていますが、外から空気を吸っており運動量保存だけでは説明できないので、ロケットではありません。

一番身近で分かりやすいロケットは、ペットボトルロケットです。あれはロケット“みたいなオモチャ”ではなく、原理上れっきとしたロケットなのです。

水の入ったペットボトルを逆さまにして蓋を開けると、じょばーっと中身がこぼれますが、ペットボトルが手から離れて飛んで行ってしまうことはありません。これは水がこぼれる速度が遅いからです。ペットボトルに空気を詰めて水を噴き出させても、出る物の重さは大して変わりません。しかし圧縮された空気が元に戻ろうとする力で水を高速で噴出させるため、ペットボトルは反対方向に飛んでゆくことが出来ます。

これでも、飛んで行ったペットボトルと噴き出した水を「ひとつのもの」として捉えれば、やはりプラスマイナスゼロが成り立っています。この原理はペットボトルロケットでも宇宙ロケットでも変わりません。ただし現実には空気抵抗や重力など外側からの力があるため、それらは考慮しなければいけません。

真空の炎

真空の炎

ロケットは外側に空気も地面も必要とせず、自分の一部を捨てることだけで本体が速度を得られるため、周りに何もない宇宙空間ではほぼ唯一の推進手段となります。ロケット本体を加速するために、捨てる用に持っているものを推進剤と言います。ペットボトルロケットの場合、水が推進剤です。高圧に詰められた空気も最後に噴き出して若干推進に寄与しますが軽すぎるため、どちらかというと空気はポンプとしての作用が大きいです。また実はペットボトルロケットより更に単純な、手を離すとしぼみながら飛んで行くゴム風船も、ゴムが縮もうとする力で空気という推進剤を高速で噴き出して飛ぶロケットと言うことができます。

これらのような、圧力の開放で噴き出すだけの単純なロケットも宇宙での使用例はあります。「ブルース・マッカンドレス2世」で画像検索していただくと、おそらく最も馴染みのある『宇宙飛行士』の写真が出てきます。この青い地球の上で斜めに浮かぶマッカンドレス飛行士が背負っているのは、窒素ガスを高圧タンクから噴き出して向きを変えたり加減速したりすることができるMMU(有人機動ユニット)です。また、ガガーリン飛行士による人類初の宇宙飛行を含め初期のソビエト連邦の宇宙飛行に利用されたボストーク宇宙船も、向きを変えるために窒素ロケットを使用していました。

しかしふたを開けたら圧力でブシュッと噴き出るというだけでは速度に限界があり、推進剤としてあまり効率がいいとは言えません。では宇宙に打ち上げるときに使う大きなロケットは何を推進剤とし、どうやって噴いているのでしょう。

化学ロケット

固体や液体の物質が激しい化学反応を起こすと、温度が急激に上がり大量の気体が発生することがあります。気体は密度が低く激しく熱運動をするため、固体や液体の時の何倍もの体積になります。化学反応で大発生し高圧になった気体をノズルから噴出させれば、かなりの排気速度が得られます。

化学反応によって発生するガスを噴射するロケットを化学ロケットと言い、我々がイメージするロケットはほとんどこれになります。燃料が酸素と反応して燃える燃焼が代表的ですが、他にも景気よく気体を出す反応は沢山あります。例えば液体の過酸化水素を加熱したり触媒に触れさせたりすると、発熱し水蒸気と酸素に分解します。ひとつの液体しか使わないため管理が楽で、この反応も宇宙船の向きを変える小さなロケットに使われることがあります。

酸素が無い宇宙空間で燃焼反応を起こすことは、酸素も液体にしてタンクに詰めて持っていけば可能です。初めて宇宙空間に達した人工物、A4ロケット(後の弾道ミサイルV2)は液体酸素で75%エタノールを燃やしていました。V2ミサイルは第二次世界大戦が終わった後、アメリカやソ連に技術を盗まれ現地で生産されるのですが、ソ連では何故か保存していた燃料がいつの間にか無くなってしまうという問題が起こりました。エタノールといえばお酒です。兵士が飲んじゃっていたらしいのです。嘘のような本当の話で、おかげで燃料を飲めないメタノール(有毒)に変えなければならなかったそう。ロケット燃料で酔っ払えるとは、羨ましいやら恐ろしいやら。

月ロケット、サターンVの1段目や前澤社長が乗ったロシアのソユーズロケットは、液体酸素とケロシン系ロケット燃料(灯油の高級なやつ)を混ぜて燃やし、主に二酸化炭素と水蒸気を噴出させて飛んでいます。液体酸素は病院の酸素マスクなどに使われ、灯油やエタノールは私たちの生活で身近に利用されています。宇宙ロケットも意外と、その辺にあるものを燃やしていると思うと親近感が湧きませんか?

NASAの雨乞い

理科の実験でよく行う、水素が燃焼して水が出来る反応は、ロケットとして使用した場合に水蒸気が飛んで行く速度が速いことで知られています。つまり運動量保存の法則的に言えば、ロケット本体を加速する効率がとても良い反応です。日本のH-IIロケットやサターンVの2、3段目、スペースシャトルのメインエンジン等は液体水素と液体酸素を推進剤とし、水蒸気を噴き出し飛んでいます。方法は違えど、出している物は物質的にペットボトルロケットと同じなのです。

ロケットがお尻から水を噴いていると聞くとイメージと違う気がしますが、実用化されている化学反応を使ったロケットではいちばん燃費がいい組み合わせになります。時間がある方は、Youtubeで「Space Shuttle Rocket Booster Test | Speed | Top Gear」こちらの動画を見てみてください。スペースシャトルのメインエンジンを地上に固定して燃やす実験なのですが、レポーターがかなり近くで見学しています。排気は水だけで、有毒なものは一切出ないからです。そして発生する大量の水蒸気が雲になり、なんと雨が降り出します。

なお燃費では非常に優れているのですが、欠点もあります。水素は最も軽い元素であり、それから出来た液体水素はとても密度が低く、1リットルで70gくらいしかありません。そのためタンクをすごく大きく作ることが必要です。また液体水素を燃焼室に送り込むポンプを全力で回しても、密度が低いせいで質量的にはあまりたくさん送れません。そのため燃費は良いものの一秒あたりに噴き出せる質量は少なくなり、パワーでは密度の高いケロシン系などに劣ってしまいます。

一触即発

一触即発

酸素や水素を液体にするには圧力を上げ、ものすごく冷やさなければいけませんこれは使わない時に保管しておくのには都合が悪く、またロケットの中でも断熱や冷却のために色々対策が必要になります。そういう面倒臭さが嫌な場合、常温で液体の推進剤を使うという手があります。代表的なのが、ヒドラジン系の燃料に、酸化剤として四酸化二窒素液を混合するものです。

この二つの液体は混合すると、激烈に反応します。液体酸素を使った推進剤は混ぜただけでは何も起きないため、着火装置が別で必要になります。しかしヒドラジン系燃料と四酸化二窒素は混ぜるだけで勝手に爆発し気体を噴射できるため、冷却機構に加えて点火装置まで省略できます。このように混ぜるだけで点火する組み合わせをハイパーゴリック推進剤といいます。

 燃費はあまり良くないのですが、貯蔵のしやすさと点火の確実性で好まれます。また、点火装置が必要なロケットは一度消して宇宙空間で点け直すということがあまり得意ではありません。着火に失敗したらおしまいだからです。その点ハイパーゴリック推進剤は着火失敗ということが無いため、何度も点けたり消したりする宇宙船のエンジンによく使われます。ただしヒドラジンや四酸化二窒素は猛毒です。ソ連兵士の皆様の真似をしてロケット燃料で晩酌を試み、それがヒドラジンだったらたぶん死にます。そのため、かなり扱いに注意を要します。

でかいロケット花火

もっと保存がしやすい化学ロケットがあります。去年の夏に買ったロケット花火は、たぶん今年火を付けても飛ぶでしょう。ロケット花火は固体の燃料と酸化剤を粘土のように練り混ぜてケースに詰めたもので、宇宙ロケットとして使われる固体燃料ロケットと基本原理は同じです。H-IIロケットの下の方についている小さいロケットや、スペースシャトルの両脇についているあれらが固体燃料ロケットです。

固体燃料ロケットは液体燃料ロケットよりも保管に便利で、ポンプなどの機械的な構造が少ないので故障の心配が少なく、点火失敗の確率も低くなります。有毒なものもありますが、固体のため飛び散ったり気化したりはせず、ハイパーゴリック推進剤よりは安心して扱えます。

また液体燃料ロケットは、推進剤をポンプでタンクから汲み出して燃焼室に送るという仕組みのため、一度に燃やせる量はポンプの性能などで制限されます。しかし固体燃料ロケットはでっかいロケット花火であり、筒の中すべてが燃料タンクと燃焼室を兼任するような構造のため、ガンガン燃やしてモリモリ排気することは得意です。つまりパワーに関しては液体燃料ロケットより優れる面があります。また、部品点数が少ないおかげで値段が比較的お手頃という長所もあります。

ただし欠点もあります。ポンプを止めてしまえば消える液体燃料ロケットと違い、一度火が付いたら止められません。燃えている最中の火力調節も苦手です。構造的な問題で大型化に限度があります。また排気の速度はあまり速くないため、ガスの量で押してパワーを稼ぐのは得意ですが、燃費は液体燃料に比べ劣ります。

 化学ロケットの推進剤は他にもたくさんの種類があり、上にあげた物もそれぞれ語りつくせないほど奥が深いものです。宇宙ロケットを作る時には、それぞれの推進剤のメリットとデメリットを考慮して、目的や条件に合わせて組み合わせてゆくことになります。

多段ロケット

多段ロケット

しかしどんなに良い推進剤を使っても、実はひとつのロケットで人工衛星を打ち上げることは今のところ不可能です。タンクやロケットの外壁などの重量がかさんでしまい、推進剤を燃やし切っても重すぎて十分な加速が得られません。

ではどうしているかというと、ロケットの上に別のロケットを乗っけて打ち上げています。一段目の推進剤が切れたら空になったタンクやもう要らない壁、エンジンを捨ててしまい、上の段が新しい満タンのロケットとして別のエンジンに点火して飛び始めます。

乱暴な例えになりますが、大型トラックに乗用車を積み、乗用車にバイクを積んでいるようなものです。大型トラックがガス欠したらトラックを乗り捨てて乗用車で走り出し、乗用車もガス欠したらやはり道端に置き去りにしてバイクでもっと遠くへ行きます。全てのガソリンを大型トラックに入れてしまうより、同じガソリンの量でも軽い車に分けて詰め、順次乗り捨てていけばより遠くへ行けます。

また多段化すれば、高度に合わせて最適なエンジンを使うことが出来ます。エンジンは気体を吐き出すため、周りの気圧などに大きく影響され、高度ごとに最適な形は異なります。更に地面から浮き上がる時は燃料や上の段が重く、重力に逆らわなければならないためパワーが必要になります。一方高く飛びあがってからは衛星軌道に乗るための横方向の加速が重要になり重力の影響は小さく、また下段を捨てて軽くなっているため、パワーより燃費が重視されます。

例えば月ロケット、サターンVは1段目にパワーのあるケロシン系-液体酸素。2、3段目は燃費のいい液体水素-液体酸素、アポロ宇宙船には点火装置が要らず信頼できるハイパーゴリック推進剤を使っています。

途中で捨てた下段は、降ってきます。日本の鹿児島から打ち上げる場合は海に落ちるので、船に迷惑をかけないよう地元の漁業組合等と打ち合わせをしています。また米国のスペースX社は、降ってくるロケットを壊さず回収して再利用するという離れ業に成功しています。

ミサイルとロケット技術

ミサイル

「宇宙船」や「宇宙ロケット」と聞くと何となく、こんな絵が頭に浮かばないでしょうか。先がとがった銀色の円筒に羽がついていて、お尻から火を吹いて飛んでゆく。中ほどには丸い窓が付いていて、宇宙飛行士がニッコリ笑って手を振っている。もうお察しだと思いますが、あれはマンガ的な表現で、今のところあのような宇宙船やロケットは存在しません。1段式ロケットで軌道には乗れませんし、あそこに窓があったら推進剤タンクはとても小さく、ろくに加速できないでしょう。

核の巨人

では現実の宇宙船はどのようなものか、わかりやすい例を見ていきましょう。まず、「ジェミニ宇宙船」で画像検索してみてください。これが米国が1960年代に使っていた宇宙船です。黒いところに人が2人乗っていて、白い部分には機械類や燃料タンク、電源などが入っています。また宇宙船にも軌道を変えたり向きを変えたりするための小さなロケットがたくさんついており、このジェミニにも合計37個の噴射口があります。

次に「ジェミニ タイタンII」で検索しましょう。さっきのジェミニ宇宙船が、銀色のロケットの上にちょこんと乗っかっています。下の部分は宇宙船を宇宙まで送る「打ち上げロケット」と呼ばれるもので、道中で切り捨ててしまうので、最後には宇宙船だけが残って旅を続けます。「タイタンII」は、この打ち上げロケットの部分に付けられた名前で、ちなみに2段式です。真ん中あたりの白黒の部分に2段目のエンジンが入っており、1段目燃え尽きたらあのあたりでぶつりと切り捨てます。

スペースシャトルなど例外はありますが、宇宙船はジェミニのように、打ち上げロケットの上に載っていることが多いです。ロケットと宇宙船の関係は分かっていただけたと思いますが、最後に「タイタンII ミサイル」を見てみましょう。先程ジェミニ宇宙船があった所に、何か黒い物が乗っています。核爆弾です。宇宙船を打ち上げるのに使われるロケットが、核ミサイルとしても利用されているのです。

うわあこっちに来るな!

「ミサイル」とは何でしょう。定義は色々あるものの現代日本での主流は「推力を持ち、目標を狙って針路を変えながら飛んで行って爆発する兵器」です。基本的に空を飛ぶもの限定で、誘導型の魚雷や敵戦車の下に潜り込んで自爆する対戦車犬、ナチスドイツの可愛いラジコン爆弾「ゴリアテ」等は敵を狙って動きますがミサイルとは呼ばれません。

戦闘機から投下される爆弾や大砲の弾に、羽を動かして針路を調節し目標を狙うものがありますが、自分の推力は持たないためミサイルではありません。またソ連のロケット兵器・カチューシャなど、誘導されず闇雲に飛ぶだけのものもミサイルとはあまり呼びません(呼ぶこともあるのでややこしいのですが)。ミサイルの多くはロケットを利用していますが、飛行機と同じジェットエンジンを利用した巡航ミサイルというものがあるため必ずしもロケットでなければいけない訳ではありません。

宇宙開発は血の香り

宇宙開発は血の香り

兵器ではないため宇宙ロケットもミサイルではありませんが、タイタンIIのように、頭を爆弾に入れ替えればミサイルに早変わりします。世界で初めて作られた宇宙ロケットは、ドイツで開発されたA4です。1942年10月3日の試射で高度80kmを記録。現代では宇宙との境界線は標高100kmという認識が多数派ですが、これが決められたのは1960年代です。1940年代までに最も高く飛んだのは恐らく、成層圏に達したドイツの列車砲の弾で、宇宙に行く可能性がある物体は他の国には無かったため「どこからが宇宙か」を決める必要はありませんでした。

また、空気力学的には80kmも100kmもそれほど変わらないらしく、宇宙との境界(カーマン・ラインといいます)を80kmに引き下げようという議論もなされています。いずれにせよ、人工物が初めて宇宙に出た日は1942年10月3日、その名はA4というのが広く認知されています。

時は第二次世界大戦の真っ只中。このA4は、はじめからミサイルになるために作られました。試射に成功したA4はナチスドイツの兵器となり、爆弾を積んで名前をV2と変え、ロンドンやアントウェルペン(アントワープ)に降り注ぎました。宇宙開発の歴史は戦争と共に始まり、その後も血生臭さを見え隠れさせつつ歩んでゆくことになります。

V2はせいぜいヨーロッパ内が射程でしたが、その後の改良で大陸をまたいだ遠くまで爆弾をぶち込めるようになりました。また噴射の方向を変えて針路を調節し、標的に命中させる技術も向上していきました。スプートニク1号を打ち上げたソ連のR-7ロケットも、アメリカで宇宙飛行士を打ち上げたアトラスやタイタンも、すべて元は大陸間弾道核ミサイルです。

推進剤の紹介で、ハイパーゴリック推進剤や固体燃料が登場しました。これらは保存が効き易く、点火の信頼性も高いため、相手が打ってきたらすぐ仕返しに打ち返すため用意しておくのに都合が良いという側面もあります。宇宙ロケットに使われる技術の多くは、より高性能なミサイルを作るために開発されました。そもそも可燃物に酸化剤を混ぜて急速に燃焼させるという発想自体、爆弾と同じものです。

平和な宇宙ロケット

この流れに抗った国があります。我らが日本です。宇宙開発を始めようと決まった時、憲法9条や非核三原則のあるわが国では、宇宙ロケットを作るということはつまりミサイル開発と同じなのでは?という文句が国内から付きました。そこで作られたL-4Sロケットは「全固体無誘導重力ターン方式」という裏技を使いました。

全段固体燃料なのですが、珍しいことに飛んでいる最中にノズルを傾けて噴射の方向を変える能力が無く、ロケット自体は本当にただ燃えているだけ。進路の調節は発射前に機体を傾け、重力と翼による空気力学的特性で傾きが制御されるという受動的なものだけに頼っています。空気が薄くなってからは機体ごと回転することで姿勢を安定させます。一度だけ自発的に向きを変えますが、ロケット噴射をしていない間に行うため「誘導」ではありません。

こうして打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」は短命でしたが、その後の開発を進めるための大きな到達点となりました。ミサイルにできないロケットで人工衛星を打ち上げるというのは非常に珍しい事例です。その後は誘導のできるロケットも認められ、H-IIシリーズなどが活躍しています。

ただし、日本のロケット開発が100%軍事と無縁であったかというと、残念ながらそうとは言えません。おおすみの打ち上げより前に、カッパロケット(河童ではなくギリシャ文字のκが由来)という観測ロケットがユーゴスラビアに輸出されましたが、その技術の一部が現地で地対空ミサイルに転用されたのです。大きな力には必ず悪用の手段があるものです。みんなの夢が核といっしょという時代がいつか終わるよう願ってやみません。

節約の鬼、はやぶさ

節約の鬼、はやぶさ

せっかく日本の宇宙開発の話が出たので、我が国が誇る小惑星探査機「はやぶさ」がどうやって旅をしたかお話して最後にしましょう。はやぶさの行先はイトカワという小惑星ですが、軌道の一番高いところが火星より外側にあり、並走するにはかなりの加速が必要になります。さらに小惑星のかけらを持ち帰る任務のため、帰ってくる分の加速も必要になります。しかし「はやぶさ」の打ち上げロケットM-Vは、そこまで強力な部類ではありません。そのため「はやぶさ」は徹底的に効率の良い飛行をしなければなりません。

はやぶさもロケットエンジンを持っています。しかしこのμ10というエンジンは化学ロケットではなく、電気推進ロケットと呼ばれるものの一種で、その中でもイオンエンジンに属します。簡単に言えば、気体原子に電荷を帯びさせ、静電気の力でものすごく加速して飛ばすことで推力を得るエンジンです。化学ロケットよりはるかに速いスピードで推進剤を飛ばすため燃費は10倍以上になります。推進剤の消費が少ない代わりに大量の電力を使いますが、電力はソーラーパネルで補給できるため宇宙飛行にはもってこいと言えます。

ただし現時点では一度に飛ばせる原子の数が少ないため、推力は小さく鼻息程度の力しかありません。長く噴射し続けることでゆっくり確実に加速していきます。たくさんの原子を一度に飛ばす方法も研究されているうえ、もっとたくさん電気を使えば原子を放出する速度も上げられるため、将来的にはもっと強力な電気推進ロケットが登場するでしょう。

嘘をつきました

冒頭で私はこう書きました。ロケットが「唯一の宇宙飛行の手段」だ、と。ごめんなさい嘘です。正確には、地表から飛び上がる方法は今のところロケットだけですが、宇宙に出てからは「外側の力」を利用し、推進剤を全く使わず加減速する方法がいくつか存在します。

たとえば、光は宇宙でも降り注いでいます。地球上では小さすぎて感じられませんが、光にも風のように圧力があり、抵抗になるものの無い宇宙空間では太陽の光が様々なものをじんわりと押しています。外側の力として申し分ありません。大航海時代の船のように探査機に帆を張れば、太陽光を受け止めて加速することも可能です。また、地球上から帆にレーザー光線を当てて加速しようという構想もあります。

はやぶさは飛行中、機体の向きを変える装置が壊れてしまい大ピンチに陥りました。その時はやぶさはこの「太陽光圧」をうまく利用して安定し、無事帰還しました。加減速に使ったわけではありませんが、光にも物を押す力があるという実例です。なおこのようにうまく利用できる場合もありますが、ふつうの人工衛星や探査機にとって太陽光圧は軌道がずれる原因になる邪魔者でもあります。

もうひとつ紹介するのは重力アシストです。天体(惑星や衛星など)は主星(太陽や地球など)の周りを猛スピードで公転しています。惑星を例にしましょう。探査機が惑星に近づいて重力に捕らわれると、重力に繋がれた状態で公転方向に引きずられることになります。そうしてから惑星を離れると、接近する前より加速しています。重力に引きずられたことで、公転のスピードを分けてもらえたのです。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の冒頭で主人公がスケボーに乗り、走っているトラックの荷台を掴んで楽をしますが、あのイメージに近いです。惑星の方は探査機という余計な荷物を引っ張らされたせいで少し公転速度が減りますが、質量に差がありすぎるため問題になるほどの減速はありません。これを加速スイングバイと言います。

加速するのは探査機が惑星の公転方向の後ろを通った場合で、逆に探査機が前を通った場合、惑星に速度を奪われて減速します。大型トラックに紐を付けて引っ張っても、トラックが重すぎてあまり動かず人間の方が疲れてしまうのと似ています。こちらは減速スイングバイと呼ばれます。

はやぶさは一度太陽を回る軌道に出た後、地球に再接近し、加速スイングバイをしてイトカワへ向かいました。燃料を使わない賢い方法です。はやぶさを引きずった地球の重力のごく一部には、私たちの体重が発生させたものも含まれます。地球上のすべての物質が協力し、みんなではやぶさを引っ張って小惑星へ送り出したと考えると、何だか素敵な気がしませんか?

おわりに

今回はロケットの仕組みについて解説してきましたがいかがでしたでしょうか。いつの日かロケットで気軽に宇宙旅行が出来る日が来るかもしれませんね。

なお、お勉強の事でお困りごとがありましたら、是非私たち家庭教師にもご相談ください!また、家庭教師の仲間も募集中です。ご興味のある方は下記リンクより是非ご検討ください。

この記事を書いたのは

家庭教師ライターE

家庭教師ファーストの登録家庭教師。北里大学獣医学部獣医学科在学。

著作・制作

家庭教師ファースト/株式会社エムズグラント

『質の高いサービスを、良心的な価格で』をモットーに、全国で20年以上家庭教師を紹介しています。実際に担当する教師による体験指導受付中。教育に関する相談もお気軽に。

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